レイ・デイヴィス ”other people’s lives”―もう初期だけだなんていわない

私にとってキンクスは、オールドロックの中でビートルズ、レッド・ツェッペリンとも並ぶ重要な存在。実験的精神とサウンドが魅力の後2者に対し、歌としてきくのがキンクスだから、仕事をしながら一緒に歌う特集も年に何度もある。 また他2集団に比べ、活動…

宮本常一『忘れられた日本人』―私はいったい何をしているのか

読んで思った。現代人は、というより、私はいったい何をしているのかと。 例えば地球の裏側で行われているボール遊びを一大事と考えて大騒ぎしたり、ききとれもしない言葉で歌われる歌に現を抜かしたり。21世紀の日本に生きることで得られるこうした愉しみは…

『ユナイテッド93』―映画的な、あまりに映画的な

こんなに怖い映画をみたのは、初めてだったかも知れない。 「表現」とは“業”だと思う。自分の企みにかたちを与えることでこころよく思わない人がいるとしても描かずにはいられない、どうしようもなく切実なかたち。その切実さこそが、表現に力を与えるのだ。…

こんばんは、はじめまして。 このたび hatena に登録したのですが、私、quarante_ans は、goo にメインブログを持っています。 しかし hatena の機能はすばらしい点が多いので、効果的な方法を考え、利用したいと思っています。 goo のブログもよろしくお願…

フレーミング・リップスをきくのはこれで3枚目。 前作 "Yoshimi Battles the Pink Robots"とその前の "The Soft Bulletin" をきいたからもう慣れているけれど、この完全主義の音づくり、それに反するへなちょこボーカルがつくり出す、遊園地的ポップは実に…

帯に「24時間戦う遺体科学者 動物進化の神秘へ迫る」。もちろん写真も満載。何やら尋常ならぬ著者の顔写真も魅力的で、つい買ってしまったらかなりおもしろかった。 本書の美点は多い。まず生物の本としては異例といえるリリックな表現、そして同じ解剖学の…

ジム・ジャームッシュのキャリアの中で、数年後、本作『ブロークン・フラワーズ』はどのような位置を占めることになるのだろう。 『ダウン・バイ・ロー』から後のジャームッシュは、いつも物語を描くことを回避しているように思っていた。繰り返し撮ってきた…

【introduction】 米の女性シンガーソングライター。詳しいことは知らないのですが、固定メンバーは1人のよう。『ミュージックマガジン』では、「低血圧女番長」「不思議ちゃん」のようなことが書いてありました。 最初に買った前作 "you are free" は、M…

酒井邦嘉氏の著作に触れて驚かされるのは、何よりその「わかり方」によってだ。 私は「わかりやすくわかる」ということを、あまり信じることができない。そのため「わかり方」を語ろうとして、かえってわかりにくくなってしまいがちだ。そんなこともあって、…

『ふたりの5つの分かれ路』―映画的にもっとも甘美な共犯としての“裏切り”

フランソワ・オゾンに惹きつけられるのは、その精神の怪物のごとき強引人工性とそれで現出される映画的リアル、だからこそ身につまされる奇妙な肉体的な感覚ゆえのこと。私の中で、前者は『クリミナル・ラヴァーズ』の車が去るシーンの物語から隔絶した2人…

現役ロック界でレディオヘッドは特別の存在だ。 毎回新しい要素に挑戦しながら、決してクオリティが落ちない。個人的なベストは90年代ベスト2の一角97年の "ok, computer" だが、たとえば "Amnesiac"の "Life in a glass house"での大胆なジャズ解釈などは…

71:29〜『健全な肉体に狂気は宿る』内田樹・春日武彦

実に期待値の大きかった両名の対談は読んでびっくり。 ともに複数読んだことはあるが、その中では内田氏では『先生はえらい』、春日氏では『不幸になりたがる人々』が、どちらもその年のベストといっていいほど印象深い。内田氏の美点は圧倒的ともいえる明快…

映画にとっての「泣ける」

ちょっと前、以前に「日本語の歌詞」(http://blog.goo.ne.jp/quarante_ans/e/9137d88bec032434d17bfd5a4619429d)の件があった高校の同級生I君から、「泣ける映画5本あげてみてくれ」とメール。忙しかったので「後で」と返信するもさらに要求があったので…

『歓びを歌にのせて』 ―丁寧に人間関係が描かれた後でいい表情と音楽があれば

【introduction】 本国スウェーデンで大ヒットして、05年アカデミー外国語映画賞にもノミネート作。 故郷の田舎に帰ってきた天才指揮者が、地元の聖歌隊を何とかするというストーリーです。【review】 思えばスウェーデン映画には、好きな作品が多い。 世界…

【introduction】 1stが売れに売れた英期待の若手の2nd。 いきなり武道館単独で今年のフジではDAY1のメインだそう。J−WAVEの日曜では1位にもなりました。【review】 名前は知らんが、何度かテレビでみたヴォーカルの顔が思い出されてしまう。やたら…

【introduction】 寄生虫学の立場から「超清潔思向」に真っ向から食ってかかる著者の発言は、新聞などで読んで注目していました。著書は初めて。【review】 たまたまブックオフで見つけたので買った文庫版だが、茂木健一郎氏の著書に続き選択ミス。おもしろ…

『ブロークバック・マウンテン』―“わかりようのなさ”と“わからないようのなさ”の間で

【introduction】 アン・リー監督が05アカデミー監督賞を受賞。同性愛の純愛ストーリーということで話題になりました。【review】 一体この映画は10年経つと、どんな風に語られるのだろう。 作品賞の『クラッシュ』が時間とともにつまらない映画に思えてきた…

【introduction】 元・ジャム、スタイル・カウンシルというのが適当かどうかの、英国ロック最重要人物の一人、ひと呼んで“ウェラー兄い”が発表した集大成アルバムということで、『ミュージックマガジン』05年英ロック1位ほか大いに話題に。キャリアベストの…

【introduction】 塾OB・I君によれば、「最近テレビでもよくみます」の茂木氏。とはいえ、スポーツと映画、たまにニュースくらいしかみない私は画面で拝見したことはありません。 新聞書評などで読んだ「クオリア」という概念には興味を持っていたものの…

ポール・ハギス『クラッシュ』〜“定型”の効果と限界

【introduction】 本年度アカデミー作品賞。前年の『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家ポール・ハギスの監督作で、LAが舞台の「クラッシュ」をキーワードにした群像劇です。【review】 表現には、時間とともに思いが深まるものと反対に薄まってしまうも…

……NHK−BSで黄金週間というのにこれといった予定のないロック老若男女にまたとないプレゼントの“ロック黄金映画”特集があるので、ここはシリーズ化しつつある“自らの old days からみる音楽名作”としてこの5作について。●1日 デヴィッド・ボウイ『ジギ…

【introduction】 ウェールズ出身の若手ポップバンドの7枚目だそう。前作で初めてきいて、なかなか気に入ったので購入しました【review】 おだやかで緻密。 最近のブリテン若手によくある音づくりでも、こういうタイプは嫌いではないので、ずいぶん回数はき…

【introduction】 肩書は文化人類学者の上田氏の文章は、新聞や雑誌で読んで気になっていはいました。『朝まで生テレビ』でも何度か。しかし一冊まとめて読むのは初めてです。 ど真ん中ストレートのタイトルはなぜか買う時には気にならず、読み終わってから…

トニー・ガトリフ『愛より強い旅』―劇場でこそ興奮の音の旅

【introduction】 『僕のスウィング』の記事も書いたトニー・ガトリフ作品はけっこうみていますが、劇場でみたのは初めて。 ドキュメンタリータッチということもあり、別にテレビで十分と思っていたのですが、まったくそんなことはありません。圧倒的な音楽…

先週の16日、春の雨の木曜日。1ヶ月続けた仕事を仕上げるべく、塾へ車を走らせていた。途中、駅を見下ろす中央道の陸橋に向う時、きいていたMP3プレイヤー、愛機 iriver プリズムが奏で始めたのは、日本のガールズバンドの元祖といわれる、ZELDAの…

先週だったか、塾OBの若いやつと飲酒討論中、最近のまわりの出来事やY君が最近読んだという遠藤周作『沈黙』、仕事などの話からテーマは“信じる”ということに。J−WAVEをつけていたところ、メアリー・J・ブライジ+U2 "One" がかかったところでふ…

『キングコング』〜ビューティフォー、ビューティフォー

劇場作優先という新ルールにより、正月にみたこの映画のレビューを。 めったにみないエンターテインメント作品ですが、4回分たまったポイントカードが半年間の期限切れが近づいたので、『SAYURI』でもみようかと思うといっていたら、特撮ファンの同級…

首都圏に雪が降った土曜は、OB・Y君と新宿ピットイン主催、ニューイヤージャズフェスティバルに行ってきました。そのレポートを。12:30 ファミリーマートで前夜番号間違えて出なかった紙発券に成功 13:00 出発。雪のため湘南新宿ライナー運休で一本遅れ。…

『ある子供』〜懐かしいような、それでいて味わったことがないような人の手の温もり

【introduction】 『ロゼッタ』に続き2度目のカンヌ映画祭パルムドールを受賞したダルデンヌ兄弟監督最新作。ワル、ではなく、とことんダメな若者が、恋人に産ませた子どもを売ってしまったり、小学生と組んでひったくりをしたりといった突飛な内容ですが、…

『歌え!ロレッタ愛のために』〜感想、S・スペイセク賛歌として

【introduction】 シシー・スペイセクがアカデミー主演女優賞を手にした、カントリー歌手ロレッタ・リンの半生を描くトゥルーストーリー。それほどの名作というわけではありませんが、一人の女性の悲喜がじわーっと伝わり、ああいい映画だったなと思わせる佳…