『歓びを歌にのせて』 ―丁寧に人間関係が描かれた後でいい表情と音楽があれば

【introduction】
本国スウェーデンで大ヒットして、05年アカデミー外国語映画賞にもノミネート作。
故郷の田舎に帰ってきた天才指揮者が、地元の聖歌隊を何とかするというストーリーです。

【review】
思えばスウェーデン映画には、好きな作品が多い。
世界映画史の至宝ベルイマンの他では真似できない奇妙な作品群をはじめ、アメリカでも成功している『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』『ギルバート・グレイプ』のハルストレム、そして『ショー・ミー・ラヴ』『リリア・4-ever』の若手注目株ルーカス・ムーディソンがいる。ベルイマンのまったく普通に思える人々が抱く狂気とそれが展開する奇跡は別格としても、美しい田舎の風景にどうしようもない影を落とすハルストレム作、そして地方にいるからこそ見る夢が連れてきてしまう悲劇とそれを突き抜ける喜びが浮き沈むムーディソン作。いずれもめずらしくない人々の暮らしを丹念に描いて、映画でしか味わえない珠玉の世界を創造してすばらしい。
本作にしても、都市の生活に疲れ果てた有名人が純朴だが現代的な問題を抱える人々との交流を通して自分を取り戻していくというプロットはめずらしいものではない。
本作が人々の心を打つのは、やはりその音楽があってこそだろう。
『スウィング・ガール』は未観だが、“つたない音楽”を武器にした名作は古今少なくない。バンド映画の最高作と信じるA・パーカー『コミットメンツ』や、つたないとはいえないが味のある素人演奏が見事な効果を産んでいたマーク・ハーマン『ブラス!』などが思い出される。多分『スウィング・ガール』の元ネタと思うが、テレビでも数年前にみた小曽根真が高校生のジャズバンドを指導する日本テレビのドキュメントもそんな感じだった。一方、上質なエンターテインメントが売り物のアメリカ映画では、つたなさが魅力にはなりにくいのだろう。
本作にしても、DVや子どもの頃の人間関係といったエピソードはどちらかというと映画からきこえてくる音楽のために語られているといっていい。ちょうどひとりひとりの歌声を重ねていくように。
ダンス映画やスポーツ映画が肉体がついてしまう嘘を覆い隠すためにCGに走るのに比べ、つたなさも味になる音楽は映画向きに思える。ダンス映画も、例えば『ベルリンフィルと子どもたち』のようなドキュメントではリアリティがあるから、理由はほかにあるのかも知れないけれども。
そして本作のラストシーン。丁寧に人間関係が描かれた後でいい表情と音楽があれば、それだけでいい映画になるということが、登場人物の歌声と同様高らかに、そして力強く歌われる。

2月2日 伊勢崎MOVIXでOB・Y君と

(BGVは韓国:トーゴ。韓国力強い。そういえば、スウェーデンはサッカーも強いが、あのメンバーで点が取れなかったのが心配)