映画

『麦の穂をゆらす風』―「しようがない」―連休前夜

いい天気だった連休前日。3回券が4月いっぱいなのと、ぜひみたかった作品だったことで、シネマテークたかさきに『麦の穂をゆらす風』をみに行きました。 起きてから仕事して、その後の予定から午後2時にシャワーを浴びてのスタート。仕事の電話をしながら…

『オールタイム映画個人ベスト90』選出

風邪で苦しんでいた木曜。仕事もはかどらぬまま、ブログ映画レビューの一部を転載している「Yahoo Myムービー」をみていたところ、生涯1、2位、『気狂いピエロ』『ゴッドファーザー』だけになっていた「お気に入り作品」に何となく追加し始めたところ、…

山田洋次『武士の一分』―個人的な感想・映画の不思議

……最初に断っておきますと、このレビューはまったく個人的な山田洋次監督作品論に始まっていますので、あまり他の人の参考にはならないと思いますのでご容赦のほどを……そういう映画ファンが少なくないように、申し訳ないけれどこれまで山田洋次監督作品をそ…

イーストウッド『硫黄島からの手紙』―『突撃』より『黙示録』より『シン・レッド』より『Uボート』より『ダンケルク』より

そう多く戦争映画をみてきたわけではないが、個人的には戦争の「恐怖」ならキューブリック『突撃』、「狂気」ならコッポラ『地獄の黙示録』、「無常」ならマリック『シン・レッド・ライン』、「緊張」ならペーターゼン『Uボート』、「不条理」ならヴェルヌ…

ダンカン・タッカー『トランスアメリカ』―「新しいテーマは古いスタイル」で

「ロードムービー」とはすごい発明だと思う。 性同一障害、親子関係、少数民族、ワーキングプアなど実に多様な、しかも今日的なテーマを詰め込みながら、それを難なくまとめてしまえたのは、ロードムービーというすばらしい“道路”があってこそ。もちろんそれ…

C・イーストウッド『父親たちの星条旗』―第一部だけでも戦争映画の新たな傑作

順番無視で今日は映画。明日の『硫黄島からの手紙』公開前にと思ったので。『硫黄島』をみた後ではきっと印象が変わってしまうから今日のうちに。この第一部だけでも十分な傑作だと思う。 まず監督イーストウッドの、76歳にして新たなジャンルに挑戦し、しか…

クローネンバーグ『ヒストリー・オブ・バイオレンス』―現実感から遠いところでしか描き得ないもの

【introduction】 気にはなっていたがバロウズの原作にひかれてみた『裸のランチ』以外はみたことのなかったクローネンバーグ作。ファンの同級生M君に誘われて出かけた。平和に暮らしていたコーヒー店主のもとに、かつて店主にひどいことをされたというマフ…

B・デ・パルマ『ブラック・ダリア』―たまたまみたメタリカかオフスプリングのような

そんなに多くみているわけでもないブライアン・デ・パルマについては、特に思い入れがない代わりに別に嫌いなわけでもなく、『ブラック・ダリア』は知らなかったJ・エルロイは馳星周氏絶賛の『ホワイト・ジャズ』を読み、ツイストが過ぎて途中からもう何も…

『ホテル・ルワンダ』―「本当であること」の重要さ

高校生の頃、当時よくそうしていたように中学の同級生と麻雀をしていて、たまたまその晩のゴールデン洋画劇場で放送される『ローマの休日』の話になった。この名作をみたことがあったメンバーが私とJ君がその素晴らしさを語っていた時にT君が放った次の質問…

『ニュー・ワールド』―画面に残されたうねるようなワイルドネス

寡作で知られるテレンス・マリック監督作品といえば、ストーリーとはまったく関係なくはさみ込まれる静かな自然描写。その特異な編集感覚は、戦争映画『シン・レッド・ライン』で血なまぐさい戦いのすぐそばにそういう生き物たちの営みが行われているという…

『スーパーマン リターンズ』―踏みとどまる技術の矜持

【introduction】 いわずと知れたアメリカンヒーローの古典。高校生の頃か1と2は劇場でみて、非常によくできた娯楽作という印象は残り、数年前にあるムックで1の紹介原稿を書いたこともあります。やはりC・リーブスはアンフォゲッタブル。【review】 C…

『隠された記憶』―初心者がみる上級者の碁のような

【introduction】 『ピアニスト』でカンヌ審査員特別グランプリ受賞のミヒャエル・ハネケ監督は本作では監督賞受賞。夫婦役にダニエル・オートゥイユとジュリエット・ビノシュという豪華な顔合わせ。自分たちの生活を映したビデオが送られてきたことから、夫…

『ユナイテッド93』―映画的な、あまりに映画的な

こんなに怖い映画をみたのは、初めてだったかも知れない。 「表現」とは“業”だと思う。自分の企みにかたちを与えることでこころよく思わない人がいるとしても描かずにはいられない、どうしようもなく切実なかたち。その切実さこそが、表現に力を与えるのだ。…

ジム・ジャームッシュのキャリアの中で、数年後、本作『ブロークン・フラワーズ』はどのような位置を占めることになるのだろう。 『ダウン・バイ・ロー』から後のジャームッシュは、いつも物語を描くことを回避しているように思っていた。繰り返し撮ってきた…

『ふたりの5つの分かれ路』―映画的にもっとも甘美な共犯としての“裏切り”

フランソワ・オゾンに惹きつけられるのは、その精神の怪物のごとき強引人工性とそれで現出される映画的リアル、だからこそ身につまされる奇妙な肉体的な感覚ゆえのこと。私の中で、前者は『クリミナル・ラヴァーズ』の車が去るシーンの物語から隔絶した2人…

映画にとっての「泣ける」

ちょっと前、以前に「日本語の歌詞」(http://blog.goo.ne.jp/quarante_ans/e/9137d88bec032434d17bfd5a4619429d)の件があった高校の同級生I君から、「泣ける映画5本あげてみてくれ」とメール。忙しかったので「後で」と返信するもさらに要求があったので…

『歓びを歌にのせて』 ―丁寧に人間関係が描かれた後でいい表情と音楽があれば

【introduction】 本国スウェーデンで大ヒットして、05年アカデミー外国語映画賞にもノミネート作。 故郷の田舎に帰ってきた天才指揮者が、地元の聖歌隊を何とかするというストーリーです。【review】 思えばスウェーデン映画には、好きな作品が多い。 世界…

『ブロークバック・マウンテン』―“わかりようのなさ”と“わからないようのなさ”の間で

【introduction】 アン・リー監督が05アカデミー監督賞を受賞。同性愛の純愛ストーリーということで話題になりました。【review】 一体この映画は10年経つと、どんな風に語られるのだろう。 作品賞の『クラッシュ』が時間とともにつまらない映画に思えてきた…

ポール・ハギス『クラッシュ』〜“定型”の効果と限界

【introduction】 本年度アカデミー作品賞。前年の『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本家ポール・ハギスの監督作で、LAが舞台の「クラッシュ」をキーワードにした群像劇です。【review】 表現には、時間とともに思いが深まるものと反対に薄まってしまうも…

トニー・ガトリフ『愛より強い旅』―劇場でこそ興奮の音の旅

【introduction】 『僕のスウィング』の記事も書いたトニー・ガトリフ作品はけっこうみていますが、劇場でみたのは初めて。 ドキュメンタリータッチということもあり、別にテレビで十分と思っていたのですが、まったくそんなことはありません。圧倒的な音楽…

『キングコング』〜ビューティフォー、ビューティフォー

劇場作優先という新ルールにより、正月にみたこの映画のレビューを。 めったにみないエンターテインメント作品ですが、4回分たまったポイントカードが半年間の期限切れが近づいたので、『SAYURI』でもみようかと思うといっていたら、特撮ファンの同級…

『ある子供』〜懐かしいような、それでいて味わったことがないような人の手の温もり

【introduction】 『ロゼッタ』に続き2度目のカンヌ映画祭パルムドールを受賞したダルデンヌ兄弟監督最新作。ワル、ではなく、とことんダメな若者が、恋人に産ませた子どもを売ってしまったり、小学生と組んでひったくりをしたりといった突飛な内容ですが、…

『歌え!ロレッタ愛のために』〜感想、S・スペイセク賛歌として

【introduction】 シシー・スペイセクがアカデミー主演女優賞を手にした、カントリー歌手ロレッタ・リンの半生を描くトゥルーストーリー。それほどの名作というわけではありませんが、一人の女性の悲喜がじわーっと伝わり、ああいい映画だったなと思わせる佳…

【introduction】 心のすれ違う夫婦が、互いを理解するまでを描いた小津作品。同じディスクに入れておいた歌舞伎六代目尾上菊五郎のドキュメントもいっしょにみました。【review】 ちょうど昨日読み終わった内田樹・春日武彦両氏の『健全な肉体に狂気は宿る…

『やかまし村の子どもたち』〜永遠でない永遠の時間

【introduction】 『ショコラ』などのラッセ・ハルストレムが、『長くつしたのピッピ』シリーズの原作者であるリンドグレーンの原作・脚本を映画化した、わずか3軒のやかまし村の6人の子どもたちの夏休み。 過ぎ行く夏の終わりに、とみたのですが、そうい…

Sのつく監督 この一本

前回の「子役がかわいい」の投稿を書いていて、以前波平さんのブログ(http://blog.goo.ne.jp/any-body-else7/e/7ec250c494e5f3539a12167ee73d6237)にコメントした「Sのつく監督 この一本」を思い出しましたので、ここにも書き込みます。サム・ペキンパー…

西、イラン、日、中、仏の5本で

本日は、micchiiさんの「愛すべき映画たち」の「子役がかわいい! 募集!!」(http://micchii.blog4.fc2.com/blog-entry-229.html)に投稿した内容を1)『ミツバチのささやき』……後頭部から撃たれるような衝撃的なかわいさ。零細学習塾を営んでいて塾生に…

『さすらいのカウボーイ』〜時代の手法の奇蹟

【introduction】 ピーター・フォンダ監督&主演によるニューシネマ、新感覚ウェスタンなのだそうです。放浪していたフォンダが、落ち着いた暮らしをしようと一度は去った妻子のもとに帰り農家を手伝うが、親友が悪漢に捕えられ……というストーリー。 どちら…

『きれいなおかあさん』〜中国社会が変わる時

スン・チョウ監督 2001年中国 90m. NHK-BSで収録 9月14日観【introduction】 中国の代表的女優コン・リー演じる母親の、耳に障害を持つ息子への愛を描いた感動作。普通小学校への入学のためにあの手この手を使って奮闘する母の姿は悪くはないと思いますが、…

『プレイタイム』〜仏映画史上最高の製作費で描かれた“不思議なほのぼの”

ジャック・タチ監督 1967年フランス 125m. NHK−BSで収録 9月8日観【introduction】 『ぼくの叔父さん』のジャック・タチが当時フランス映画史上最高の製作費をかけてつくられた70ミリ大作コメディ。 ストーリーを紹介するのは難しいですが、タチ映画でおな…