トニー・ガトリフ『愛より強い旅』―劇場でこそ興奮の音の旅

【introduction】
『僕のスウィング』の記事も書いたトニー・ガトリフ作品はけっこうみていますが、劇場でみたのは初めて。
ドキュメンタリータッチということもあり、別にテレビで十分と思っていたのですが、まったくそんなことはありません。圧倒的な音楽に溺れるのは、劇場ならではでした。
カンヌでは監督賞を受賞。後でサントラも買いました。

【review】
意外にもストーリーがはっきりしていた『僕のスウィング』の後だけに、今回はどうなるのかと思っていたところ、若い男女がルーツを求めて旅をするロードムービーという素材は、いかにもガトリフらしい。小さいドラマもあるにはあるが、各地で出会う音の洪水に身を浸らせているとあっという間に上映時間という旅は終わる。
本作の舞台というか道程は、パリからアンダルシア、地中海を渡りモロッコ、そしてアルジェリアへ。これらの音楽を正しく語る知識は私にはないが、サントラのライナーをみるとキーワードはイスラム神秘主義スーフィーで、私もアルバムは持っているパキスタンのヌスラット・ファテ・アリ・ハーンもスーフィー音楽なのだという。よくはわからんが、なるほど。
圧巻はサントラの最後に収められている「transe」。アルジェのスーフィー音楽をベースにガトリフが独自にアレンジしたというこの曲はすさまじかった。複雑なリズムの嵐に次第に高まり、やがてトランス状態に上りつめる人々。アワワワワワワ、アワワワワワワという掛け声は、日本の屋台囃子で提灯を持った人々の出す声にも似ている。お盆のような太鼓を持っているのに叩かず、ずっとくるくる回してしたオヤジはそうやれといわれてのパフォーマンスだろうか。
オープニングの主人公の局部アップ、サッカー場で踊り狂う恋人など、常に唐突に始まる演奏シーンを彩る、インパクト十分でも首をひねざるを得ない映像群はいつものこと。それより砂漠の隊列を捕えた大きなショットに、これまでのガトリフ作になかったスケールを感じ、かっこいーっ、と唸った。やはりこれも劇場の大画面ならでは。

映画は06年1月17日 渋谷シネ・アミューズにて観。サントラは3月6日初聴