2006-01-01から1年間の記事一覧

加藤幹郎『映画館と観客の文化史』―だから映画は美しい。作品も観客も

年も押し詰まり寒くなりました。今日は「読書」、映画についての本です。映画はきちんとみたいと私は思っている。できれば映画館で、自宅で録画でもそれなりに姿勢を正して、最初からエンドロールが消えるまで。この本を読んでも、その気持ちに変わりはない…

ダンカン・タッカー『トランスアメリカ』―「新しいテーマは古いスタイル」で

「ロードムービー」とはすごい発明だと思う。 性同一障害、親子関係、少数民族、ワーキングプアなど実に多様な、しかも今日的なテーマを詰め込みながら、それを難なくまとめてしまえたのは、ロードムービーというすばらしい“道路”があってこそ。もちろんそれ…

野上弥生子随筆集『花』―「山よりの手紙」の中の『マルクスの娘たち』

U2だのイーストウッドだの荒くれた話が続いたので、ここで一つ、明治生まれの女性が老境に達してから書いた随筆です。【introdoction】 著者の wikipedia の解説は(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E4%B8%8A%E5%BC%A5%E7%94%9F%E5%AD%90)。1885…

C・イーストウッド『父親たちの星条旗』―第一部だけでも戦争映画の新たな傑作

順番無視で今日は映画。明日の『硫黄島からの手紙』公開前にと思ったので。『硫黄島』をみた後ではきっと印象が変わってしまうから今日のうちに。この第一部だけでも十分な傑作だと思う。 まず監督イーストウッドの、76歳にして新たなジャンルに挑戦し、しか…

“マンデイ・スマイリー・マンデイ”―U2来日公演最終日レビュー

12月も早くも7日。5日からマフラーもし始めましたが、まだ自室は暖房なし。わけもなく、ただ乾くのが嫌なのと単に面倒なので耐えています。 というわけで、きっともっと寒いだろうアイルランド出身、U2日本公演最終日のレビューです。会場の埼玉スーパー…

"with or without you"―U2前夜に

12月最初に日曜。久しぶりに仕事らしい仕事はまったくせず、いい天気だったし、うっかり昼っから飲んだりしていました。 いよいよ明日は春から延びたU2公演。熱い話は冬に書いた(http://blog.goo.ne.jp/quarante_ans/e/2b6bf75e06c16d0807d7d8987e98b7fe…

クローネンバーグ『ヒストリー・オブ・バイオレンス』―現実感から遠いところでしか描き得ないもの

【introduction】 気にはなっていたがバロウズの原作にひかれてみた『裸のランチ』以外はみたことのなかったクローネンバーグ作。ファンの同級生M君に誘われて出かけた。平和に暮らしていたコーヒー店主のもとに、かつて店主にひどいことをされたというマフ…

ニール・ヤング "parairie wind"―ゆったりとして律儀な深化 "without anywhere to stay"

ニール・ヤングをきいていていつも思うのは実にまじめなミュージシャンだということ、もちろん“彼なりに”ではあるけれど。 ちゃんとききだしたのは遅いが遡ってけっこうきいたし、18年ぶりという01年のフジロック、次の年か武道館の "greendale" ツアーにも…

湯本香樹実『ポプラの秋』―夢見る時間だけにわかるほんとう

今日も暖かな11月。昼間はこの小説に触発されたわけではないけれど、サツマイモを掘りました。本作によれば、新聞紙とぎんがみでくるんでポプラのはっぱで焼くのだそうです。【introduction】 湯本香樹実さん―こうやって書いてみると、何ともいえず美しい名…

B・デ・パルマ『ブラック・ダリア』―たまたまみたメタリカかオフスプリングのような

そんなに多くみているわけでもないブライアン・デ・パルマについては、特に思い入れがない代わりに別に嫌いなわけでもなく、『ブラック・ダリア』は知らなかったJ・エルロイは馳星周氏絶賛の『ホワイト・ジャズ』を読み、ツイストが過ぎて途中からもう何も…

ポール・ウェラー "Catch-Flame!"―おしゃれ頑固の骨太集大成

スタジオ最新作 "as is now"(http://blog.goo.ne.jp/quarante_ans/e/4f0267bbd5206c8622cfa92bcdbe61cb)についての記事で、学生時代、ジャケ写のファッションを真似ていたなどという個人的ファン史には触れたのでここではサウンド面のみ。そういえば、音楽…

島田雅彦『退廃姉妹』―「だらだら」と“感動的”であること

島田雅彦氏の小説世界のもっとも大きな魅力は、完璧ともいっていい見事な「だらだら加減」にある。少なくとも今まで私が読んだ中では。 たとえば、新聞小説ということも手伝って、架空のだらだら世界に徐々に身を沈めていく快感が味わえた『忘れられた帝国』…

『ホテル・ルワンダ』―「本当であること」の重要さ

高校生の頃、当時よくそうしていたように中学の同級生と麻雀をしていて、たまたまその晩のゴールデン洋画劇場で放送される『ローマの休日』の話になった。この名作をみたことがあったメンバーが私とJ君がその素晴らしさを語っていた時にT君が放った次の質問…

ボストン・グレイテスト・ヒッツ―"A band we'll never be"

何を隠そうボストンは、高1の時に行った初の外タレコンサートで武道館。今は北海道で医者をやっている中高の同級生A君と繰り出したのだった。 2nd "Don't look back" を出した直後の最盛期。トム・シュルツのゴールドのレスポールや名前は忘れたボーカル…

熊野純彦『西洋哲学史―古代から中世へ』―思考の言葉の美をそのまま味わう

著者のねらいは、おそらく単に「西洋哲学史」の紹介なのではない。誰がどんなことを考えたということでなく、誰がどんな言葉を使ったかということ、その哲学の思想とともに言葉の美しさをそのままに、哲学詩として読者に味わってもらうことだったのではない…

『ニュー・ワールド』―画面に残されたうねるようなワイルドネス

寡作で知られるテレンス・マリック監督作品といえば、ストーリーとはまったく関係なくはさみ込まれる静かな自然描写。その特異な編集感覚は、戦争映画『シン・レッド・ライン』で血なまぐさい戦いのすぐそばにそういう生き物たちの営みが行われているという…

ベル&セバスチャン "The Life Pursuit"―切なく甘酸っぱく清々しい“軟弱頑固”

日本で、いや世界のどこでもそうだろうがベル&セバスチャンのファンといえば、好きな人ならわかる大体共通するイメージがあるはずだ。押しつけがましくなくはないけれど自分の世界は持っていて感傷にひたりがちで悪くいえば線が細く軟弱、どちらかというと…

青木奈緒『うさぎの聞き耳』―「文は人」

幸田露伴を祖に、幸田文、青木玉さんと続く名文一族の同い年作家。奈緒さんの存在を知ったのはNHK教育でやっていた祖母晩年の随筆『崩れ』の道筋をたどる仕事のドキュメントで、同い年だということで途端に親近感を持った。1963(昭和38)年は「卯年」で…

『スーパーマン リターンズ』―踏みとどまる技術の矜持

【introduction】 いわずと知れたアメリカンヒーローの古典。高校生の頃か1と2は劇場でみて、非常によくできた娯楽作という印象は残り、数年前にあるムックで1の紹介原稿を書いたこともあります。やはりC・リーブスはアンフォゲッタブル。【review】 C…

ダミアン・ライス "O"―生涯の秋の一枚

今きいているのが二度目だけれど、きっと生涯のベスト50に入る一枚。今日からしばらく何度も、多分来年もそのまた次の年も、ずっと特にこの秋から冬にかけてよくききそうだ。ニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールドラッシュ』、ハイ・ラマズの『ビート・…

町田健『チョムスキー入門』―いいたい放題の、正しい「入門」

確か『先生はえらい』でだったか内田樹氏が、本でおもしろいのは「入門」だと書いていて安心した憶えがある。たまたまそういう時代だったか、学生の頃は翻訳とはいえドゥルーズだのロラン・バルトだのの本人の著作を大体古本屋でも高い金を払って読んでいた…

『隠された記憶』―初心者がみる上級者の碁のような

【introduction】 『ピアニスト』でカンヌ審査員特別グランプリ受賞のミヒャエル・ハネケ監督は本作では監督賞受賞。夫婦役にダニエル・オートゥイユとジュリエット・ビノシュという豪華な顔合わせ。自分たちの生活を映したビデオが送られてきたことから、夫…

レイ・デイヴィス ”other people’s lives”―もう初期だけだなんていわない

私にとってキンクスは、オールドロックの中でビートルズ、レッド・ツェッペリンとも並ぶ重要な存在。実験的精神とサウンドが魅力の後2者に対し、歌としてきくのがキンクスだから、仕事をしながら一緒に歌う特集も年に何度もある。 また他2集団に比べ、活動…

宮本常一『忘れられた日本人』―私はいったい何をしているのか

読んで思った。現代人は、というより、私はいったい何をしているのかと。 例えば地球の裏側で行われているボール遊びを一大事と考えて大騒ぎしたり、ききとれもしない言葉で歌われる歌に現を抜かしたり。21世紀の日本に生きることで得られるこうした愉しみは…

『ユナイテッド93』―映画的な、あまりに映画的な

こんなに怖い映画をみたのは、初めてだったかも知れない。 「表現」とは“業”だと思う。自分の企みにかたちを与えることでこころよく思わない人がいるとしても描かずにはいられない、どうしようもなく切実なかたち。その切実さこそが、表現に力を与えるのだ。…

こんばんは、はじめまして。 このたび hatena に登録したのですが、私、quarante_ans は、goo にメインブログを持っています。 しかし hatena の機能はすばらしい点が多いので、効果的な方法を考え、利用したいと思っています。 goo のブログもよろしくお願…

フレーミング・リップスをきくのはこれで3枚目。 前作 "Yoshimi Battles the Pink Robots"とその前の "The Soft Bulletin" をきいたからもう慣れているけれど、この完全主義の音づくり、それに反するへなちょこボーカルがつくり出す、遊園地的ポップは実に…

帯に「24時間戦う遺体科学者 動物進化の神秘へ迫る」。もちろん写真も満載。何やら尋常ならぬ著者の顔写真も魅力的で、つい買ってしまったらかなりおもしろかった。 本書の美点は多い。まず生物の本としては異例といえるリリックな表現、そして同じ解剖学の…

ジム・ジャームッシュのキャリアの中で、数年後、本作『ブロークン・フラワーズ』はどのような位置を占めることになるのだろう。 『ダウン・バイ・ロー』から後のジャームッシュは、いつも物語を描くことを回避しているように思っていた。繰り返し撮ってきた…

【introduction】 米の女性シンガーソングライター。詳しいことは知らないのですが、固定メンバーは1人のよう。『ミュージックマガジン』では、「低血圧女番長」「不思議ちゃん」のようなことが書いてありました。 最初に買った前作 "you are free" は、M…