『ニュー・ワールド』―画面に残されたうねるようなワイルドネス

寡作で知られるテレンス・マリック監督作品といえば、ストーリーとはまったく関係なくはさみ込まれる静かな自然描写。その特異な編集感覚は、戦争映画『シン・レッド・ライン』で血なまぐさい戦いのすぐそばにそういう生き物たちの営みが行われているという当たり前の事実を知らせてくれて新鮮だった。他の作品も、シシー・スペイセクのくるくるスクリーンを動き回るアーパー美発散、ちょっと困った邦題の『地獄の逃避行』、何だかんだいってもサム・シェパードがかっこよくてたまらない『天国の日々』と、どれも忘れられない魅力にあふれている。
そんなマリック監督の新作は、ポカホンタス伝説を映画化したこの作品。実は伝説自体よく知らなかったのだが、アメリカ建国の矛盾を突く監督渾身の一作らしいのだが、半年近く経って記憶に残っているのはストーリーより繊細この上ない映像ばかりだ。
すべて自然光という撮影といえばかつて『木靴の樹』などもあったが、現代のすぐれたフィルムの特性がうまく活かされている印象で、今までにない深みのある映像となっている。そしてそこに来る時間を待っていたであろう、計算し尽くされた太陽の位置にいちいち唸らされた。いつもながらサウンドの綿密さにも驚かされるばかりだ。
そして、こういうところはさすがアメリカ映画といえる時代考証。17世紀のネイティヴや欧州人の生活にたいした知識はなくても、きっとこうだったんだろうなと思わせるリアリティは迫力すら感じさせる。
さらにアメリカという国の奥深さを感じたのは、あの17世紀そのままのようなロケ地。東海岸にあんな場所がまだ残っているというのだからすごい国だ。
というわけでストーリーにはあまり触れられなかったが、まだ10代だというクオリアンカ・キルヒャー嬢はさすが本物といえる荒々しい魅力にあふれていたし、よくは知らないコリン・ファレルクリスチャン・ベールも十分な存在感だった。文化衝突の問題の普遍性や、主人公のドラマのダイナミズムは十分伝わる。
また最近読んだ山下柚実著『給食の味はなぜ懐かしいのか』でこの作品で「匂いつき上映」が試みられたと知ったが、画面に残されたうねるようなワイルドネスはそうした試みにはぴったりかも知れない。試みの是非は別にして。
そうはいっても、一般ウケする作品ではないよう。一緒に行った同級生M君と、史上初の2人独占上映を体験。

5月8日 太田イオンシネマ

(BGMは西欧文化の結晶といえるケイト・ブッシュの昨年作から、NHKライブビートでビーナスペーターというバンド。すごく演奏がうまいのにふさわしくなく弱いヴォーカル、奇妙に幾何学的な印象のリズムで、これはまたあまりきいたことのないタイプの不思議音楽。あまり好きな種類ではないが)