ジム・ジャームッシュのキャリアの中で、数年後、本作『ブロークン・フラワーズ』はどのような位置を占めることになるのだろう。
ダウン・バイ・ロー』から後のジャームッシュは、いつも物語を描くことを回避しているように思っていた。繰り返し撮ってきたオムニバス、ドキュメンタリー。いずれもスタイリッシュで独特のユーモアにあふれていて彼を熱狂的に受け入れた多くのファンを飽きさせるものではなかったが、『ダウン・バイ・ロー』のようなハラハラさせる映画ではなくなっていて、ジャームッシュ作品にはそういうものは期待しないといった態勢をみる者につくらせていた。
本作にしても、一人ひとりの女性を訪ねるエピソードが重ねられているからオムニバスの一種といえなくはないにしても、主人公の自分探しという大きなテーマがある点が近作と異なっている。しかもいつものようにぶっきらぼうな感じを見せるでなく、ウェルメイドととられることを恐れないかのような凝った脚本。よく話題になるシャロン・ストーンの娘のヌードはじめ意味深長に思わせる数々のカットも、これまでの彼の作品ならもっと意味から切り離されたかたちでそこにあったはずだ。
つまり本作は、ジム・ジャームッシュの映画としては、決して悪い意味ではなく“普通”なのである。
これが一時の気まぐれでないなら、これから彼の新たな作品群がみられそうだ。

5月25日 伊勢崎MOVIXにて

(BGMはJ−WAVE。"vioce" でさっききいたテキストを探したのですがまだなく、前のをみていたら出てきたヒッチコックの言葉<http://www.j-wave.co.jp/original/voice/sun/8月13日分>。ジャームッシュとは対照的にストーリーの可能性を考え続けた人です)