フレーミング・リップスをきくのはこれで3枚目。
前作 "Yoshimi Battles the Pink Robots"とその前の "The Soft Bulletin" をきいたからもう慣れているけれど、この完全主義の音づくり、それに反するへなちょこボーカルがつくり出す、遊園地的ポップは実に快い。ウェールズのスーパー・ファリー・アニマルズなどこうしたかたちの尖っていながら心地よさも同居するポップは、今や一つのジャンルを形成しているといっていいだろう。一世代前のXTCなどにあった先鋭的な感じをリスナーに与えず、表面上はポップさに徹しているように見えるところが00年代的といえる。

本作をきいて何を思い出すかは、きく人のリスナー歴によるだろう。それでもほとんどの人が自分の好きな何かのバンドに似ていると思い、しかもその既視感はたまらなく幸福なものであるはずだ。
私にとってその幸福感の絶頂は、本作ではM4 "My Cosmic Autumn Rebellion "。80年代っぽいシンセ音が築き上げるフィル・スペクターサウンド・オブ・ウォール、途中の展開で『危機』あたりのイエス、なのに全体としては『ペットサウンド』のビーチボーイズを思い出す。そんなところだ。

アルバム向きの曲ばかりで、 "The Soft Bulletin" のほかの曲の印象をまったく消してしまうほどの甘酸っぱい名曲 "race for prize" のようなシングルチューンがないのは残念でも、それは贅沢というもの。トム・ヨークのソロも同様だが、こうした電子音で涼めた暑くない夏でした。ところで "My Cosmic Autumn Rebellion" って何だろ。

5月31日初聴 アマゾンで購入

(日本代表戦を後ろにBGMはもちろん本作。テキストリンクは小林秀雄賞の荒川洋治氏についての毎日と読売の記事読み比べ。<http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/gakugei/bunka/news/20060903ddm014070043000c.html><http://www.yomiuri.co.jp/book/news/20060905bk06.htm>。以前から荒川さんのファンで喜ばしい受賞ですが、受賞作はあまりに高いので、アマゾンで伊藤比呂美氏とねじめ正一氏との共著『恋愛微妙相談』というのを111円で買いました、これは『鳩よ!』の連載らしく、時代を感じさせる1冊)