B・デ・パルマ『ブラック・ダリア』―たまたまみたメタリカかオフスプリングのような

そんなに多くみているわけでもないブライアン・デ・パルマについては、特に思い入れがない代わりに別に嫌いなわけでもなく、『ブラック・ダリア』は知らなかったJ・エルロイは馳星周氏絶賛の『ホワイト・ジャズ』を読み、ツイストが過ぎて途中からもう何も信じられない状態に入り辟易とした記憶があり、ただスカーレット・ヨハンソンは、若くてまだ硬い感じだった『モンタナの風に吹かれて』や『ゴースト・ワールド』、それから見事に輪郭がぼやけてとろけそうになった『ロスト・イン・トランスレーション』とみて、まあ米国若手女優では注目していて、劇場でみるだけの価値ありと車で出かけた。
何だかんだいって、観客を飽きさせないのはさすが。ただその印象はどちらのファンも納得しないだろうが、たとえばそう、名前を挙げればメタリカとかオフスプリングとか、そんなに興味がなくてラジオできいたことくらいはあってもCDは持っていないバンドのライブをたまたまテレビか何かでみて、ああ、うまいしエンターテインメントとしてはよくできてるし、好きな人は好きなんだろうなといった感じなのだ個人的には。ハッタリ満点で適度におどろおどろしく、高度にパターンナイズされている点が似ている。
アンタッチャブル』を思い出すフィルム・ノワール風味や得意の階段を使った演出、そのシーンでは初期にヒッチコックの後継者といわれた影の使い方も見事だった。いつもながらのよくできたセット、ボクシングシーンのリングや観客席、女優の配置やお手本通りの撮影、もったいつけたカット割りなどなど。それらはメタリカオフスプリングの完璧なリフや構成、文句のつけようもないステージングと同じように、熱狂的なファンや反対に苦笑の対象にしたがる映画ファンにとっては、これ以上ないデ・パルマ作を堪能できるのだろう。
しかしそのどちらでもない観客にとっては、やはりいつものデ・パルマ作。入場料を損したと思わない代わりに、次のデ・パルマが楽しみとも思わない。変ないい方だが、もはや安心してみられる“コージー”サスペンスホラー。たとえばほぼ同時代が舞台の『ロード・トゥ・パーディション』みたいに、文句のいいようがあればその方がいいようにも思えるが。
といってきっと次のデ・パルマ作も、時間があればみにいってしまうのだろうな。おそらくキャストとか題材とか、こっちの気を引くのを見つけてくるに違いないから。
唯一の謎は、ブラック・ダリアの映像を粒子の粗くないモノクロで撮ったのはなぜかということ。あの片目だけの涙のシーンは、確かにオールドフィルムタッチでは表せなかったろうが。
ヨハンヨンはよかった。大根っぽい演出もデ・パルマの得意とするところだと思う。

11月2日 伊勢崎MOVIX

(BGMは J-WAVE小林克也の番組でマーヴィン・ゲイ特集から11時の鳥山何とかのジャズ番組に。日曜のこの時間のラインアップもいい。Phは goo では2点しかなく、イマイチだがヨハンヨンの方をチョイス)