ポール・ウェラー "Catch-Flame!"―おしゃれ頑固の骨太集大成

スタジオ最新作 "as is now"(http://blog.goo.ne.jp/quarante_ans/e/4f0267bbd5206c8622cfa92bcdbe61cb)についての記事で、学生時代、ジャケ写のファッションを真似ていたなどという個人的ファン史には触れたのでここではサウンド面のみ。そういえば、音楽記事24本目にして初めての同じアーティスト二度目記事だ。まあ、それはどうでもいいが。

05年に行われ、来日公演もあったツアーのライブ。この公演は知ってはいたが、前年のロックオデッセイに行ったこともあってスルーした。愚か先に立たず。
そう、WOWOW でやっていたブリットアワードでのライブの数曲をきいて、このアルバムはすごいだろうことはよくわかった。わずかな曲数なのに全キャリアを包括したラインナップ。ということは懐かしい曲もあるわけだが、それがひょっとしたら発表した当時より熱い演奏で支えられていた。むう。
長いキャリアの持ち主のライブでは、昔の曲のウケがいいことはしかたないことかも知れない。事実、けっこう遅れて最初にみた何年か前のアコースティックセットでは、本作にも収められている Thats entertainment などソロ以前の曲の方がウケがよく、あのウェラーでさえと、おかしな納得のしかたをしたものだ。あの熱い横浜国際でもイントロがきこえて私が一番嬉しかったのは、スタイルカウンシル時代の my ever changing moods である。
しかしこのライブ盤はどうだろう。もう30年にもなるキャリアから選ばれた23曲(輸入盤)の間にほとんど温度差は感じられず、すべて同じアルバムに収録されている曲であるかのようだ。
とくに曲づくりという面において、私はウェラーのことを実はそんなにたいしたことはないと思っている。多くの先達、キンス、ビートルズスティーヴ・ウィンウッド、ソウル、サザンなどを見事に消化して完璧といえるサウンドをつくり上げるが、曲そのものにクラシックとなるほどのポピュラリティーはない。曲自体のシンプルさにも関わらずだ。それは例えば同世代で同じようなキャリアを持つ、エルヴィス・コステロやスティングと違って、あまりカヴァーされることがない事実にも現れているように思う。私の中でウェラーは、その何曲かをやはりうまく取り入れたことのある“和製ウェラー”とでもいえそうな佐野元春氏と同じように、極めて「秀才」タイプのミュージシャンだと思っていた。
その印象は本作をきいて変わったというわけではない。ただ、これまで思っていた以上にウェラーは“ウェラー”だったということだ。
たとえばキャリアの一つの頂点ともいわれるソロ2枚目からの Wild wood。ソロ最初のライブ盤のタイトルでもあったこの曲をその発表時以上の熱さをもって演奏するなどということが可能なミュージシャンというのは、とくに初期衝動が重んじられるロック音楽の場合考えにくい。熱さの代わりに「円熟」してくるのが普通だろう。
だが本作でのウェラーは、20年前のジャム後期〜スタイル・カウンシル初期よりずっと漲っている。passive tune といわれたこの時期が大人への憧れを具現をテーマにしていたろうことを考えても、この年齢になっての変化、いや深化はまったく驚くべきといわねばならない。
と、何だか音以外の話ばかりになったが、細かいサウンドのことは本作の場合あまり重要でないように思う。歳を重ねてますます熱くなる、このおしゃれでもある頑固者の骨太な集大成に身をまかせ、うーんとうなっていればいいのである。選曲は抜群だから、初めてきく人にはベスト盤的に機能するだろう、
前回の記事をまた繰り返すしかない。どこに行くのかウェラー。こんなライブを発表した後で。

7月15日聴了

(自宅PCが動かなくなり iriver 入れ替えできずBGMは J-WAVE。早く何とかせねば)