ニール・ヤング "parairie wind"―ゆったりとして律儀な深化 "without anywhere to stay"

ニール・ヤングをきいていていつも思うのは実にまじめなミュージシャンだということ、もちろん“彼なりに”ではあるけれど。
ちゃんとききだしたのは遅いが遡ってけっこうきいたし、18年ぶりという01年のフジロック、次の年か武道館の "greendale" ツアーにも行った。個人的ベストの "after the gold rush" をはじめとするアコースティックものから名作ライブと評価の高い "weld" をはじめとするハード路線、"greendale" などのトータルアルバム。そのいずれもが捨てがたい魅力に満ちていて、ずいぶん隔たりがあるようでいながら一貫している。それは古いタイプのロックスピリット、初期衝動の確かさがあるから。ギターやベース、ドラムに少しのキーボード、それにたまにのストリングスやブラスといったスタイルへの信頼は、音楽のタイプは違ってもパティ・スミスと似たものを感じる。そうしてできる作品は付き合いの長いクレイジーホースほか誰とやっても決してぶれることはなく、ワンパターンではないがいくつかのパターンを踏みながらいつも深化しているところがすごい。
そして05年秋に出たこのアルバムは、"after the gold rush" "harvest" などの流れを汲むアコースティック・ヤング。こういう静かな作品を「全開」という言葉を使うのは抵抗があるが、彼の最良の部分の一つがよく出た佳作だと思う。かつてとまったく同じようにきこえるサウンドに浸っていると、それでもこれはあまりきかなかった "are you passionate?" でのメンフィス録音など、最近の経験がよく反映された印象があって新鮮だ。その音楽から受けるのと同じ、ゆったりとして律儀な深化。
いい曲は多いけど、1曲といわれればM5 "It's a dream"。この人は本当にワルツがうまい。曲づくりでいつもぶっ飛ばされるのはBメロの展開のしかたで、甘くとろけるようでいてどうしようもない切なさが、いつでも至上の音楽時間を味わわせてくれる。
新聞のニュースを見て「これはただの夢なんだ」と歌う歌詞は、ともすれば定型的だ。だが社会の批判はこうした日常の中からの歌こそ有効だろうし、それがすばらしいサウンドに乗るところに音楽の奇跡の一つがある。最後の "without anywhere to stay" の切実さは、この軽やかなワルツと滑らかなサウンドがあってこそ重い。

05年11月7日聴了 アマゾンで購入