『さすらいのカウボーイ』〜時代の手法の奇蹟

【introduction】
ピーター・フォンダ監督&主演によるニューシネマ、新感覚ウェスタンなのだそうです。放浪していたフォンダが、落ち着いた暮らしをしようと一度は去った妻子のもとに帰り農家を手伝うが、親友が悪漢に捕えられ……というストーリー。
どちらかというと西部劇はあまり詳しくなく、ニューシネマは好きな私としては、オーバーラップ、多重露光多用の映像、レイドバック感たっぷりの音楽に心ひかれました。

【review】
この作品の美点は多い。
実にニューシネマ的な、アメリカンヒーロー然としない主人公と、ゆったりした時間の流れ。大きな起伏のないストーリーだからこそ、死んでいく希望に燃える若者などのエピソードを交えて、物語を追うだけでも浮世を離れたて時間も場所も離れた西部の時間を過ごすことができるだろう。
しかし私には、ニューシネマやヌーヴェルヴァーグ特有のさまざまな実験的手法を使って描かれたところに本作の貴重さが感じられる。例えばフランスのヌーヴォーロマンがそうだったように、手法の実験精神の高まりは従来の価値が揺さぶられる時にこそ起こるものだ。
それがいつもやがて下火になるのは、手法が持つ役割を終えるからだろう。しかしその失われた表現が、後に触れる者にとって何とも替え難い魅力を放つことがある。
いってみれば“時代の手法の奇蹟”。例えば絵画と音楽の印象派、オリジナル・パンクロック……。
公開当時無視されたという本作が再評価されるのは、現代の人々がその表現の快さにひかれているからに他ならない。

1971年米 ピーター・フォンダ監督 91m. 9月15日観 H018