先週だったか、塾OBの若いやつと飲酒討論中、最近のまわりの出来事やY君が最近読んだという遠藤周作『沈黙』、仕事などの話からテーマは“信じる”ということに。J−WAVEをつけていたところ、メアリー・J・ブライジU2 "One" がかかったところでふと、「あ、そういえばおれは、U2は信じてるよ。いかがわしいところ含めて」と発言。そうこうするうちに4月来日というニュースがあってチケットぴあの抽選予約も申し込み、昨日はサッカー観戦を休んでこの間 WOWOW でやっていた昨年のシカゴライブを観。やはり泣けました。

『WAR“闘”』をきいた学生の頃、U2は「魂」とか「気合い」とかの象徴だった。それはただ暇つぶしのボウリングであと一本を倒すための気合いのこもった一投を「U2ボウル」と呼んだりという他愛もなく陳腐な魂だったが、そういったものからほど遠い当時の暮らしぶりからしてボノの歌う "Sunday bloody Sunday" をきくことは、政治的背景などまったくわからないままに、きいている間は彼らの熱い怒りや焦燥がダイレクトに感じる、そんな時間だった。

そして "With or without you" などの大成功があり、当時、「悪魔に魂を売り渡した」などと酷評されたシンセポップ三部作。動員数が多くなるともにエラそうな言動が目立つようになり、学生でなくなった私もまったく興味を失っていた。この頃、小錦関に電話したりしたという東京ドーム公演もあったが、そういうわけでみていない。

そんな私にU2熱が甦ったのは、NHK−BSであった97年発売"Pop"のツアーをあまり期待もせずにみてからだ。彼らのことをうまいバンドといういう人はあまりいないだろうが、メンバー4人だけでつくりあげる音は『WAR“闘”』の頃と変わってはいない。よくぞその名前をという感じのエッジの分度器で計れば15度くらいの鋭角的なギターに、ボノの魂のボーカルが乗っかると実直な魂が冷たい空の上をかけめぐる。変わってしまったのは、ビッグネームになった彼らをみるこっちの見方だけだったのだ。塾の若いやつらにきかせても、『WAR“闘”』当時の曲はビートルズレッド・ツェッペリンへの反応に劣らない。

そして98年、"Boy" のジャケットのヘルメット少年写真を使った初のベスト盤。音自体は変わっていなくても金儲け体質ゆえにベストは出さないのだろうと思っていた彼らのヒット曲集は、私にベスト盤を最初にきく時の正しい方法をおしえてくれた。すなわち、曲目は見ずにライブをきくように反応する。これぞ、最新アルバムをもじっていうなら、ハウ・トゥ・ディスパッケージ・ベスト盤。
何で "One" がねえんだと文句をいっていたら、当たり前でそれは範囲外。円熟を感じさせた "All That You Can't Leave Behind" の後、02年に発表された牛のジャケットのベストにきちんと入っていてよかった。
そうこうするうちに、『WAR“闘”』のスティーヴ・リリーホワイトを迎えての "How to Dismantle an Atomic Bomb" 。オープニングの "Vertigo" はこの年もっともよくきいたシングルとなり、特に塾で徹夜試験勉強に突入した翌朝、帰りに10回くらい連続できいたこともあった。

ということで、音楽的にはこっちの勝手な信頼を回復したU2だが、問題のポリティカルな部分はどうだろう。同時多発テロ翌年のグラミー賞だったか、ステージに亡くなった消防士、警官の名を映してみたりという行為は、今の若者にもうさんくさいと敬遠されがちだ。ミュージシャンたるもの、ショーンが生まれてからのジョン・レノンのように、身近なところにこそ物語を見つけ出すのが本来の姿ともいえる。
しかし、「いつまでこの歌を歌わなければならないのか」と歌う "Sunday bloody Sunday" のU2だ。ダブリンからロンドンに出てきたばかりで先のことなどまったくわからなかった時にあの歌を歌ったボノが、思いもよらぬ巨大なステージに立った時、「Africa! Journey to equality! And go on!」と叫ぶことは、エッジのギターが初期とまったく変わらないのと同じように一貫性がある。
メディアの発達した今、ポップスターは30年前とはまったく異なる、誰も思ってもなかった場所に来てしまった。ほとんどありえないだろうが、そのうち "With or without you" あたりが教科書に載ってもおかしくないほどクラシックになったU2は、シカゴライブで「My first impression to America is the man walking on the moon」と発言した69年アポロのアームストロング飛行士のように前人未到の場所にいる。ならばこれらの所業は、もっと後になってからしか評価できないのではないか。何が正しいのかわかりにくい世の中、彼らのような存在が正論を叫ぶことは悪くないのでないかと思う。
そしてその後にかぶさる "One" のイントロの何と美しいことか。U2の何がもっとも信じられるかといえばその音楽だ。今後、彼らのすべてが否定されたとしても、 "Sunday bloody Sunday" や "One" が素晴らしいことに変わりはなく、何十年経ってきいても、今とは違ったかたちではあるとしても、ああ、生きていてよかったと思うことに変わりないだろう。

4月の横浜国際が待ち遠しい。

(写真は The Best of 1980-1990 。また、さすが商売上手の彼らというかその周辺のせいか、WOWOW でのオンエアはDVDのダイジェストで "Sunday bloody Sunday" など重要曲が除かれていたことも付け加えておきます。なお、リスニングは不正確)

09/30追記:ご存知のように公演は12月に延期。キャンセル優先予約でチケットは入手しています。