【introduction】
元・ジャム、スタイル・カウンシルというのが適当かどうかの、英国ロック最重要人物の一人、ひと呼んで“ウェラー兄い”が発表した集大成アルバムということで、『ミュージックマガジン』05年英ロック1位ほか大いに話題に。キャリアベストの声が多。

【review】
すみません。まずは個人的愚か者時代の話から。
スタイル・カウンシルの1stが出た20歳そこそこのその冬、私はジャケットのウェラーよろしく、ステンカラーコートにジーパン、革靴という組み合わせで過ごしていた。
さすがにシルクのスカーフを巻くまではできなかったけれど、くだらぬ毎日を過ごす貧乏学生に、パンクスピリットを忘れたと轟々の非難を浴びたロンドンのロック貴公子がニセモノ感たっぷりだけれど豊かで楽しさに満ちたサウンドでおしえてくれたのは、本当にかっこいいとはどういうことかとか、磨かれたセンスがあれば空気さえ美しく香るとかいうこと。調子に乗った愚か者は、"my ever changing moods" の歌詞を書いてアパートの壁に貼り、maj7 進行の曲をつくったことさえあった。

それからのスタイル・カウンシルは限りなくソウルミュージックに近づき、ソロになってからはいろいろやっているように見えて彼なりの“硬派”サウンドを中心に置いてきたように思う。そしてその核になるのは偉大な先達への真っ正直なリスペクトで、それこそがウェラー・ミュージックの真髄なのだ。

そして "As Is Now" 。このすばらしいタイトルに、もう一度ウェラー・サウンドの魅力は何なのかと考える。

とくに近年のウェラー・タイムはこうだ。ガガン、ガガーンとギターが鳴り、ウウウ〜とウェラーが唸り、律儀なアルペジオがそれにからみつつ高まっていく。そういう時間を過ごすためにきいている、そんな気がしてならない。
"heavy soul, pt1" の荒くれるイントロ一発、"band new start" の今時珍しいヴォーカルパートと同じギターソロ、"wild wood" の硬派な高まりの後のセンチメンタルな完結コード、カーペンターズバカラック "close to you" の、レノン "don't let me down" の、あっけに取られるソウル消化など、いくつもの幸福なウェラー・モーメントが思い出される。
その魅力は、いってみれば目新しいことは何もないのに心つかまれる、阪神・濱中の内角打ちのようなものかも知れない。

この最新作はどうだろう。
新しい局面があるわけでなく、いつものウェラーがさまざまな角度からきけるだけ。そのあたりが同年代で同じように精力的な作品を発表し続けているのに、常に新しい面をきかせるエルヴィス・コステロとの違いにも思える。だが私には、そのどちらがいいとはいいかねる。

どこへ行くのかウェラー。
どんな音であろうと、あなたの音ならきっと魅力的で、ああ、やっぱりウェラーなのだと心震わされることだろう。
もうすぐ出るライブもきっと買ってしまうな。

おっとアマゾンでディスコグラフィーを見ていて思い出した。"home and abroad" のジャケ写。あの綿パンの折り返しは、“着こなし”ということのすべてを物語っていると思う。
そういえば、けっこう前の『ブルータス』映画特集で、甲斐よしひろスタイル・カウンシル時代のポール・ウェラーのフレンチ・アイビーの出典はテレンス・マリック天国の日々』のサム・シェパードではないかと語っていた。いろんな意味で意外。

ポール・ウェラー"As Is Now" 05年10月28日聴 アマゾンにて購入