ドゥルッティ・コラム "keep beathing"―壊れそうということはそれだけで美しく力強い

三が日も終わり、そろそろ日常に戻る頃。日常からははるかに離れた佇まいが魅力の英国ポップのレビューです。

80年代に出てきたバンドなのだが、実はCDを買ったのは初めて。その頃は中古で安かった12インチシングルを1枚買ったけど、それほどきかずにしまったまただった。それがもう5年以上前かJ-WAVEでやっていたUAの番組できいてそのこの世のものとは思えないサウンドに魅了されて探し出してきいたのだが、曲目検索もできたはずなのにその曲がどれかわからず、HMVの店舗やアマゾンでもどれを買っていいかと悩んだまま買いそびれていた。今回ニューアルバムが発売されることを『ミュージックマガジン』で知り、ちょうどいい機会と購入したわけだが、慌しい年末のあれこれを即時に覆い隠してくれる霧のような浮遊感があまりに気持ちよく、年末から年始にかけて最もよくきいた一枚となった。

正体についてもまったく知らなかったのだが、もとは3人編成のバンドだったのが今は「痛々しいほど痩せた体躯にレスポールを引っさげ、それこそ鳥肌が立つほど美しい旋律をつま弾く」ヴィニ・ライリーなる人物のソロ・プロジェクトになっているらしい。意味不明のネーミングはスペイン市民戦争時のアナキストから取ったという。
サウンドはほぼ一貫してシンプルなリズムの上に霞がかかったようなエフェクトがきいた柔らかいギターと、多少の色づけとなるストリングスやホーン、サンプリング、それとこれまたふわふわとしたヴォーカルという成り立ち。だがそのいずれもが、ギターの美しい響きを引き立たせるためにだけちりばめられている、そんな気がする。
曲のアイディアはバラエティ豊かだ。スパニッシュ風、ノルディック風、フォーク風。さまざまな要素が混ざっているのにその全体的な印象が同じように感じられるのは、口ごもったようで荒削りに思える構成が実は周到に練られてまとめられたものだからだろう。
1曲をあげるのは迷うけど、流麗なインストゥルメンタルで最後まで通すM8「ランチ」に続くM9「ガン」。かきむしるようでいて静かなアコースティックのソロにトレモロ、ストリングスが静かに加わり、M8をきいた後だけにこのままインストゥルメンタル快楽が続くかと思っているとそんな思いを裏切るようにヴォーカルが乗り、絶妙のディレイとの追いかけっこが続く。そうかと思うと、飛び上がっていくような旋律に美しく歪んだエレキギターが破壊的にしかも静かに踊る。
こんな壊れそうで静かな音楽を奏でるライリーは、「ラジカルでアナーキーでありたい」と語っているそうだ。ラジカルとかアナーキーとかいうのは、実は声高に力一杯こぶしを振り上げることだけではなく、こんな美しいかたちでも実現されるものなのだろう。やっていることはまったく違っているが、たとえば弱さをそのままに叩きつける早川義夫の歌がこの上なくラジカルでアナーキーなのと同じように。
壊れそうということはそれだけで美しく力強い。

06年12月22日初聴 HMVでネット購入

(BGMはもちろん本作。MWAでアーティスト名、曲名が記録されないのはなぜだろう)