『夜行列車』〜おしゃれでサスペンスフルな列車映画の傑作

【introduction】
『尼僧ヨアンナ』で名前だけ知っているカヴァレロヴィチ監督作をみるのは初めて。イマジカで特集をやっていたのを3本収録し、時間の都合でこれをみたのですが大収穫でした。
北国の帝王』はじめ列車映画に傑作多。本作も、移動、複数の乗客、密室性などという特性を活かしつつ、まったく知りませんでしたがポーランドモダンジャズの第一人者というA・トシャコフスキーの音楽などもあって、おしゃれ、サスペンスとも兼ね備えたつまりすばらしい作品に仕上がっています。

【review】
59年といえば、ジャズがイメージをかきたてる『勝手にしやがれ』と同年。50年代の映画をみる楽しみにロック胎動以前の音楽の使い方がある。日本の石原裕次郎作品などでもそうだが、ジャズが後にロックの主要素となる激しさ、シンプルさなどを備えていて、耳が釘づけになることが多い。本作のA・トシャコフスキー編曲によるというスキャットも実に鮮烈だった。このジャズも今の西海岸パンクなどよりずっとロック的だと思う。
そして正体不明の車中の人々。あっと驚く展開があるわけではないが、それがかえってぞくぞくしたサスペンスを産んでいる。
『マイケル・コリンズ』でも話題にしたリアリティの問題。『北国の帝王』で、まさかり、鎖、斧といった身近な小道具があまりに痛そうで余りあるリアリティを醸し出していたように、本作クライマックスでもそこら辺に転がっているあるものが信じがたいほど信じられる大きな効果を上げている。普通人には拳銃で撃たれた痛みさえよくわからないが、包丁で指を切ったことがあれば、柱に頭をぶつけたことがあれば、そこら辺のものの痛みにはリアリティを感じられる。こいつは痛い。
クライマックスシーンの大胆なアングル、そしてエピローグのちっとも開放的でない冷たい感じの夏の海など、ハラハラドキドキはしないが、映画的には新鮮な驚きに満ちた作品。
しかし、DVD未発売、ビデオ廃盤で残念。『尼僧ヨアンナ』も楽しみだ。

1959年ポーランド イェジー・カヴァレロヴィチ監督 100m. シネフィルイマジカにて収録 8月4日観 H013