『ミリオンダラー・ベイビー』〜端正な名作。しかし何かが足りない

【introduction】
ブログ開設以来初めて劇場でみた作品で、もはや説明の必要もない今年度アカデミー作品賞受賞作。あえてストーリーを紹介すると、イーストウッド演じる老トレーナーが強引に入門してきた女性ボクサーを育てるスポーツ・ヒューマンドラマです。

【review】
端正な作品。
イーストウッド、スワンク、フリーマンという芸達者たちが、常にこう撮るのがベストといわんばかりのイーストウッドのタクトのもと完璧な演技を見せる。冒頭イーストウッドの「誰もいってやらないから俺がいってやる」、フリーマンの「誰もが一度は負ける」など、意味深いほとんどのセリフがやがて収束されていく脚本も実に見事だ。
論議を呼んだ結末については、私としてはこれが作者のメッセージと受けとめるだけ。どっちとすぐに答えが出せる問題ではないだろう。後味は『ミスティック・リバー』よりこっちの方がずっとよかったというにとどめたい。
それにしても、この歳でどんどん作風を広げるということ、しかもこれだけの作品を短期間で撮り上げるということに恐れ入る。そういえば『ピアノ・ブルース』というドキュメンタリーも新味があった。
極端に音数を絞った音楽も圧巻。音数と効果の比ということでは、今までにきいたことがないほど効果的な映画音楽と思う。
もちろん俳優としてのイーストウッドも十分堪能。個人的なベストショットはマギーがゲス家族に家を買ってやったのに失望させられるシーンで、静かに手を広げてひどい場面を見守る端正な佇まいにうならされた。それにしても非道な人間の描き方にかけて、イーストウッドの右に出るものがいるだろうか。
だが帰り道、一緒に行った若手Yがいった「いいんだけど何か足りない」に同感。『夕陽のガンマン』のところでも書いたが、10年後にあげるイーストウッドの好きな作品はやはり『ホワイトハンター・ブラックハート』や『ブロンコ・ビリー』だと思う。

クリント・イーストウッド監督 2004年アメリカ 133分 7月7日MOVIXにて