『僕のスウィング』〜“マヌーシュ・スウィング”と甘酸っぱい10代の恋の幸福な共演

【introduction】
ロマ(ジプシー)の文化をドキュメンタルな手法で描いてきたトニー・ガトリフ監督が、10代の恋を綴る。
シリアスな復讐劇『ベンゴ』は大好きでサントラも持っているほどですが、こうしたせつないけれど幸福な映画がつくれるとは意外。他作に比べてユーモアの感覚があるのも作品の風通しをよくしています。北部フランスの美しい風景の中の甘酸っぱい恋の話は、残暑の午後によく合うでしょう。
名前だけ出てくるジャンゴ・ラインハルトは、W・アレン、S・ペンの『ギター弾きの恋』にも登場。その魂を受け継ぐ、ジャズとジプシーミュージックが融合した“マヌーシュ・スウィング”も楽しめます。

【review】
「スウィング」はヒロインのロマの女の子の名。主人公の恋する10歳の少年は裕福なフランス人だから、当然スウィングに引っ張り回させることになる。
何といっても、ワイルドに美しいスウィングが魅力的。神秘的という言葉では言い足りない、少年マックスにも私たちみる者にも絶対に見えないものが見えると感じさせるよう。その魅力と一緒だと見慣れたあぜ道や川がまったく違ったものになるはず。ドキュメント風の映像は、みる者をマックスの視点に近づけるのに役立っているが、いつもより劇映画らしいのが反対に途中のドキュメント風の演奏シーンを盛り上げている。
そうえいばパレスティナが舞台の佳作『三つの宝石の物語』にも、スウィングのような感じのロマの少女が出ていた。

トニー・ガトリフ監督 2002年 フランス 90分 イマジカにて収録