『アラバマ物語』 〜「正義」と「子ども」、シリアスさと幸福感

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1962、アメリカ、監督/ロバート・マリガン NHKBS2にてDVD保存

【introduction】
黒人差別を通してアメリカの良心、正義を考える社会派の傑作。グレゴリー・ペックアカデミー賞に。

【review】
描かれているのはアメリカの“建前”のいい部分。
正しさ、公正さ、誇り、力強くありながらそれを誇示しないだけの慎み、主演G・ペックのキャラクターはそれを十全に表現し、映画全体が、そういった価値を信じられた時代の幸福な空気に満ちています。
ですが、本作でもっとも印象強いのは語り口の絶妙さでしょう。子どもの時間を描いた映画としてもとてもよくできていて、
差別を描いた社会派と子どもの、奇妙なマッチに唸らされます。
こんな掟破りも、いい意味でのアメリカ映画らしさ。成長後のペックの娘から語られるナレーションが、子どもたち3人のかけがえのない出来事に時間差を与えることで、製作年代より30年前の設定になっているこの映画の世界を、過去であると同時に現代の問題として立ち上がらせることに成功しているといえそうです。
家政婦が雇い主の子どもをたしなめるシーン。英米文学ではおなじみの、使用人がお坊ちゃん、お嬢ちゃんに意見する光景は、
アメリカの正義が光を失うとともに、映画からも消えてしまいました。
あっと驚いたのはロバート・デュヴァル。これが『地獄の黙示録』のギルゴア大佐と同じ人とは。