吉田修一著『ランドマーク』講談社 ブックオフで購入 9月7日読了

【introduction】
吉田氏の作品は芥川賞の『パークライフ』以来。大宮に建設中のスパイラルビルの建築家と鉄筋作業員、2人の生活を交互に描き、ビル同様にねじれていくイメージがクライマックスに向って静かに、けれども激しく突き進みます。帯で村上龍氏絶賛。

【review】
この作家は、ものすごく嘘が嫌いなのだと思う。
嫌いというより許せない。『パークライフ』もそうだったが、一見静かで何も起こらないような物語は、嘘っぽく見えること、大仰に見えることをできるだけ回避しながら、細心の注意を払って描かれた緻密な工芸品のような印象がある。華美になることを恐れつつ凡庸になるでもない、ぎりぎりのところで立ち止まる誇り高さとでもいおうか。
だからその作品を読んだ時、本作のスパイラルビルなどの奇跡的な構造を持った建築物、凝りに凝った構成とコード進行の名曲、よくできたからくり人形のように、「はーっ、よくできてる」というのがまず感じられることで、おもしろいかどうかはその次、というのが正直なところ。映画ならポール・トーマス・アンダーソンなどのように、異様にうまいのだけれど、そのうまさというのは何のためだろうと思ってしまう。
本作にしても、貞操帯のカギをビルに埋めるというわけがわからないからこそ納得できる卓抜したアイディア、鉄筋工と恋人やその母親、同僚との会話の大事さとどうでもよさが心地よい按配に交差するリアリティなど唸らせられる部分は多い。だがどうしても、それだけという気がしてしまうのだ。
完璧と構造で描く破綻と崩壊。そうなのかも知れないが、私にはそれが切実さとして伝わって来ない。
とはいえ、この作家の美点は現代日本文学に貴重。また別の作品を読んでみたい。