阿部和重
文藝春秋中で

【introduction】
芥川賞受賞作にして幼女性愛がテーマ。毎日出版文化賞伊藤整文学賞受賞の『シンセミア』と同じ神町ものです。
“現代的”な風俗があれこれと描かれ、なるほどそうだったのかと勉強になる一冊で、おもしろいことはおもしろい小説。

【review】
物語の構造にやけに意識的な著者は、若手の中で気になる存在です。『インディヴィジュアル・プロジェクション』は、映画『メメント』など世に数ある“実はこうなんだもの”の中でも出色の作品と思います。
本作も、幼女性愛だのドラッグだのという道具立てのもと、愛娘と引き離されて帰った地元神町で出会った天使のような二人の少女との無償の愛の日々でグランド・フィナーレを迎えるという展開はよくできているといえるでしょう。
しかしこういった“意外な展開”も、インディペンデント系アメリカ映画をはじめ、めずらしいものではなくなってきているのも確か。「意外な」はすでに「やっぱり」で、よく練られた破綻という感じがどうしてもしてしまいます。もっとも、そんなことなど著者にすればどうでもいいことなのかも知れませんが。
すぐれた表現には「破綻」という「力のある意外性」がつきもので、それが作品全体に生命を与えます。ウェルメイドが持ち味の著者ですが、今後、一つ突き抜けた破綻ある作品を期待します。
村上龍の「この作品がもっとも知りたい情報があったから推した」という芥川賞選評に納得。